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『エール』 VS 本当の話―11 最初のレコード

『エール』 VS 本当の話―11 最初のレコード

 

古関裕而の最初のレコードの吹き込み曲。

 

写真は左から伊藤久男、野村俊夫、古関裕而。1934(昭和9)年頃。

 

野村俊夫・伊藤久男と共に-Up.jpg

 

本日(5月28日)の『エール』では、裕一がコロムブスレコードに入社してから2年目にしてようやく最初のレコード「福島行進曲」の吹き込みをしましたが、実際のところは、古関裕而の最初のレコードの吹き込みは、入社から半年ちょっとの昭和6年5月、発売は昭和6年6月です。

古関裕而は、最初のレコードは故郷に捧げる曲にしようと、昭和5年に野村俊夫と作った「福島行進曲」(歌 天野喜久代)と昭和4年に竹久夢二の詩に曲を付けた「福島夜曲(セレナーデ)」(歌 阿部秀子)の二曲を吹き込みました。

「福島行進曲」は、ドラマの中にも出てきましたが、当時は地方小唄が流行っていて「東京音頭に刺激されて作った」と野村俊夫は語っています。

その「福島行進曲」ですが、最初作ったときとレコーディングのときとでは歌詞が違うようです。

作曲生活50周年を記念して昭和55年に自らが編んだ古関裕而作品集(全音楽譜出版刊)によると歌詞は次の通りです。

 

1 胸の火燃ゆる 宵闇に   酒をくもうか 踊ろうか

  真っ赤に熟れた 恋ならば 福島銀座を 歩こうか

2 唇燃ゆる 宵闇に   心は踊る 恋の酒

  人目をしのぶ ふたりなら 行こか隈畔(わいはん) 紅葉山

3 柳並木の 宵闇に   紅の唇 ラヴソング

  酒もくむまい 踊るまい  金の灯影(ほかげ)を 歩もうよ

 

ところがレコードで歌われている歌詞は、

 

1 胸の火燃ゆる 宵闇に   恋し福ビル 引き眉毛

  サラリと投げた トランプに  心にゃ金の灯 愛の影

2 月の出潮の 宵闇に   そぞろ歩こよ 紅葉山

  真っ赤に咲いた 花さえも   あけりゃ冷たい 露の下

3 唇燃ゆる 宵闇に   いとし福島 恋の街

  柳並木に 灯がともりゃ   泣いて別れる 人もある

 

というもので、最初の歌詞は男女の恋を歌っていますが、レコードの方はサラリと受け流している感じです。

「作品集」はオリジナルの楽譜を元にした楽譜集なので、最初に書かれた譜面には、この歌詞が書かれていたのでしょう。つまり最初に作曲したときはこの歌詞でしたが、それをレコードにするときに、野村俊夫が書き直したのでしょう。

楽譜からなる「作品集」は、譜面のチェックは丹念に行われても、歌詞のチェックはおろそかにされたようで、他の曲でも同じような例があります。

因みに同じ昭和55年に出版した自伝「鐘よ鳴り響け」(集英社文庫で復刊されている)では、レコードの歌詞が引用されています。

「エール」ではこれからどのように描かれるか分かりませんが、この最初のレコードは、福島では大々的に宣伝されて売り出されましたが、残念ながら売れ行きは芳しくありませんでした。

古関裕而も野村俊夫も、ヒット曲が出るまでは、これから数年を要することとなるのです。

(九)

2020/05/28   KITASAN